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岩波新書から

 漢検1級を復習し、再チャレンジしようと思い立ったが、最新の頻出度順問題集からまず「四字熟語200 」というノートを作った。漢字というとそれ(四字熟語)が第一に浮かぶ。
私には漢字というと、クイズみたいな国名や植物動物名の当て字や熟字訓ではなくって、まず熟語、四字熟語である。
ついで、漢検三略から「四字熟語800」も作成中だ・・・

ところで。四字熟語は「故事ことわざ」の部にも関係しているが、もっとその背景や基本的なことをおさらいできる新書を読むことにした。 それでは以下、岩波新書の『四字熟語の中国史』(冨谷至 2012年2月刊)目次読書を。 (20161117)

冨谷至 人文科学研究所教授

『四字熟語の中国史』(岩波新書)

惹句:

「温故知新」「風林火山」「臥薪嘗胆」「蛍雪之功」―どこかで目にしたことのある四字熟語の背景には、どんな歴史や思想があったのだろうか。『[論語]』や『史記』、諸子百家の思想などに登場する四つの漢字を<窓>として、古代中国を遠望する。漢字文化圏の基礎にある言葉や考え方が、紆余曲折を経て、遠い時代や場所へと伝わる筋道が見えてくる。

「四つの漢字」という窓から

一 聖人を語った言葉―孔子と『論語』

1 温故知新―なぜ『温」が「たずねる」なのか 

[論語]編纂時期:最終的には前3世紀=戦国時代~統一秦あたり
(by竹内義雄

[論語]注釈書(旧注):何晏(かあん)[論語集解(しっかい)](3世紀)など
[論語]注釈書(新注):朱子[論語集注(しっちゅう)](12世紀宋)
温は尋なり 温=(火偏に尋)=尋
日本の儒学(朱子学)、伊藤仁斎(古義学)も

荻生徂徠[論語徴(ろんごちょう)] の反対
学んだことを復習せずに冷たくしてしまう。そうではなくて常に火を加えて肉を煮て熟成させうように、故事に習熟した上に新しい知識を身につける」
「古いことに習熟してこそ新しいことができる」

「学」=読書、そこから知識を得る・暗記する ・・・暗記を基本とした中国の学問
「習」=復習する
「思」=思弁 理論構成、哲学的考察

goo辞書にはきちんと二説載っているのがエライ
:「温」はたずね求める意。一説に、冷たいものをあたため直し味わう意とも。

2 韋編三絶―書写材料の変遷

簡牘(木簡・竹簡)は20世紀になっての簡牘の発見は中国の古代史研究に計り知れない恩恵をもたらした。後漢から三国時代にかけての紙料の普及で木や竹の札を縄で結びつけるという具体的イメージは曖昧なものとなっていた。
「韋」とはなめし革ではなく、経(タテ)に対する緯(ヨコ)の意味である

竹簡を束ねる紐について

3 盗泉之水―「正名」それとも「潔癖」

「渇しても盗泉の水を飲まず、熱けれど悪木の陰にいこわず」:『尸子』(散逸している)//名と実????

4 糞土之牆―許されない「魯魚章草

孔子の弟子 宰予(さいよ)・・言動が奇矯で孔子の評価は厳しい。
[論語]公冶長 で罵倒された→文意がわからない。たった1字が百出の議論を招来する、『論語』の特殊事情:第一に儒教の経典であり、神聖な書物、第二に科挙では経書を丸暗記する必要があり、テキストが同一でなければならない。(経書の一字一句が神聖にして絶対不可変)第三に、、漢文は万人が理解することを前提として書かれていない。学問の根柢と知識の広範を必要とする読書人の文章である。

Web漢文大系: 『論語』  

二 諸子百家の興宴―春秋戦国時代の思想


1 守株矛盾 ―韓非子の儒教批判

論語= 古の秩序ある世の中を模範にする尚古主義の思想・人間の善意に対する楽天的信頼、非現実的理想主義・・ 韓非子の結論=守株、矛盾の喩え→李斯(?~前210)の焚書政策
http://kanbun.info/koji/shushu.html出典:『韓非子』五蠹

2 宋襄之仁 ―宋の人はなぜ笑われるのか

『春秋公羊伝』で賞賛:敵の厄に付け込まない=行為の結果より動機・心情:司馬遷も人徳を評価
『春秋左氏伝』では揶揄:愚直で薄っぺらな正義感として切り捨てる=結果重視

宋国にまつわる話:守株、酤酒者(こしゅしゃ)、朝三暮四、隣人之父、白馬非馬(詭弁論理を揶揄した)、澄子(ちょうし)
宋=周に滅ぼされた殷の末裔、頑民=融通が利かない頑固な人間⇒笑い話に

3 不射之射 ―我れ未だ木鶏たりえず

[列子]に見える弓術習得の説話⇒ 中島敦『名人伝』(邯鄲の紀昌)秀逸な作品、技巧的文章、読者に対するサービス精神(洒脱的諧謔的技巧)
東洋における究極の名人、木鶏の状態に至ること=道の体得、無為自然の境地への到達、自己の存在の昇華

4 風林火山 ―信玄の旗印

中国古代の兵法書『孫子』・軍争篇第七の軍隊の進退について書いた部分「故其疾如、其徐如、侵掠如、難知如陰、不動如、動如雷霆。」から→其疾如風其徐如林侵掠如火不動如山の16字の旗印? それぞれの句末の四字を抜き出して熟語化するという語構成はあまり見たことがない、古典中国の四字句ではなく、「風林火山」は和製の、現代小説の題名でしかないといってもよいかもしれぬ

徐‥おもむろ。ゆるやか・・・静か? しずかなるの訓は江戸時代に定着した訓:禅僧の読み、和製の解釈

二人の孫氏 春秋時代呉の闔閭(こうりょ)に兵法を披露した斉の孫武、その百年後の孫臏(そんびん)

goo辞書:風林火山の出典:『孫子』軍争(ぐんそう)Wikipedia 20161117閲覧: 「旗指物の研究を行った高橋賢一は「風林火山」という語句は文献に全く記載なく、現代の創作だと考えている。戦国史研究者の鈴木眞哉も井上靖の歴史小説『風林火山』が最初ではないかと考えている」

三 太史公の歴史がたり―『史記』の世界   


1 酒池肉林―「残虐なる王」の背景 

酒池肉林の多様性:異なる文献の異なる描写‥比喩表現;紂王=周王朝成立を弁護する犠牲の羊
殷の亡国をもたらした酒の弊害をいう大宇鼎(中国最大の鐘)
肉林の肉・・六畜で、豚優位型農耕文化→(殷墟から出土する動物骨は骨は圧倒的に牛

2 臥薪嘗胆―語り物と熟語の完成 

呉楚の抗争:作り話 対の観念

3 四面楚歌―天命をまえに

[史記]の中でも名文 の誉れが高い

項羽の,天に対しての己の挫折と敗北、慷慨・悲嘆、一方の劉邦の,天に対する畏怖、達観の話、冨谷至氏の解説文もここにおいて名文となっている・・

4 曲学阿世 ―司馬遷が接した公孫弘

『史記』儒林伝:轅固生(えんこせい)☓はんこせいではない公孫弘「公孫子、務正学以言、無曲学以阿世。」・・司馬遷の同時代人。儒教成功に果たした政治的役割は大。司馬遷の師 董仲舒との確執あり。碩学が政治家に向かってはいた吐いた言葉。

四 転換する時代と四字熟語―古代の終焉  


1 乱世姦雄―曹操の墓をめぐって

三国魏の曹操に対する評語(by 許劭(きょ しょう)Wikipedia
曹操の墓とされる安豊郷西高穴村二号後漢墓内の刻字されている「 魏武王常所用挌虎太刀」などは、魔除けであろう、本人の墓ではないのではないか p161

2 親魏倭王―称号が語る日中交渉

魏の明帝→邪馬台国の卑弥呼(『三国志』偽書巻三十東夷伝、倭)百枚の銅鏡:西日本を中心に出土(三角縁神獣鏡、画文帯神獣鏡)
その100年前光武帝「漢委奴国王』金印:紐を通すツマミ(鈕)が南方蛮夷に与える印に共通する蛇の形、
三宅米吉の読み=「漢の倭の奴の国王」?
王=中国の臣下(従属国) 「漢」の「委奴国」+「王」(奴は蔑みの接尾語)

遣隋使
倭王→「倭皇」(日本側から出てきた苦肉の呼称 王の上に白を加筆)→「天皇」につながるのではないか

3 天知神知、我知君知―賄賂はなぜ犯罪となるのか

『後漢書』楊震列伝 ・・「四知」中国古代の「贈」「賄」
賄は「財貨を送る」という意味でしかない。 漢の刑法ではワイロは賕(受賕、行賕)
儀礼(儒教的儀礼の実践)から犯罪へ、賄賂はなぜ悪い?
漢から唐にかけての変化、「受財枉法」法を枉げる予防としての禁止・威嚇。今日中国では賄賂罪の最高刑は死刑

Web Kanbun-Taikei『後漢書』楊震(ようしん)」伝

4 蛍雪之功 ―読書人の世界

明清時代の文献に確認できるが、むしろ我が国の古典で見られる四字句
仏教説話集『沙石集』(13世紀)
「蛍の光」: 東晋時代の車胤(wikipedia 閲覧) 「窓の雪」孫康
「照蛍映雪、編蒲緝柳」蛍窓雪案、聚蛍映雪‥勉学に勤しむという意味の象徴句、常套句

漢文はなぜ難しいのか。漢字で書かれた文章を正確に解読くすることは誰にでもできることではない。当時の学者でもあっても、決して簡単ではなかった。多くの注釈、訓詁が作成された。
士大夫・読書人=文字を読み文章を書ける人間=官僚、豪族
「民は之に由らしむべし、之を知らしむべからず」(論語秦伯篇)
読書人と庶民との区別がはや孔子の時代から存在していた。
排他的

漢文は句読点をつけない白文が一般(白文を理解できないものは相手にしない)自己の読書人としての資格を顕示する目的
典拠を持つ言葉 「編蒲」から「苦学」を瞬時に連想できないものは読書人とはいえない

四六駢儷体(六朝時代)と詩文
読書人・士大夫階級の差別化‥読解力のレベルを時代を折って高くしていかねばならない
詩文(字数、平仄、対句・・作文の中で最も難しい):作詩=科挙で最も重要な科目


あとがき

図版出典一覧

2012年2月刊

目次に上げた四字熟語のリンク先はhttp://yoji.jitenon.jp/(四字熟語辞典オンライン )であるが、ないものもあった、「親魏倭王」は当然だが・・

「盗泉之水」「不射之射」は、四字熟語一覧 - goo辞書=業界最大語数を誇る「新明解四字熟語辞典」より厳選した四字熟語一覧)にもなかった。 ※四字熟語一覧の検索ランキング は面白い。


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