夏目漱石

 

漱石の漢詩を読む 

古井由吉さんの著書「漱石の漢詩を読む 」での引用からから一つ

淋漓たる絳血 腹中の文
(りんりたるこうけつ ふくちゅうのぶん)

嘔いて黄昏を照らして 綺文を漾わす
(はいてこうこんをてらして きもんをただよわす)

夜に入りて空しく疑う 身は是れ骨かと
(よにいりて むなしくうたがう みはこれほねかと)

臥床 石の如く 寒雲を夢む
(がしょう いしのごとく かんうんをゆめむ

それにしても胃潰瘍なんかで死なねばならなかった漱石はもったいないではないか・・


腹中文

=本来の意味は綾、模様、飾り、更に形、形象を指す
しかし、雑多な混乱したもののことをいうのではない。秩序ある形です。
空の「天文」のことも言う。それと、筋、更に条理を意味する。
そして文字、ことばです。「あや」というのが形、計書王、現象という意味と重なるといっても、混乱したそれではなく、何かの原理に基づいて統一された調和あるものをいうようです。


古井由吉「漱石の漢詩を読む」p59(岩波書店2008)

面白いことに、古代ギリシア語の方の、近代語にもあるコスモスという語と、類似している。コスモスも、やはり、綾、模様のことであり、それから秩序のことをいう。


「こうしてみると、ことばというのは、古くさかのぼればさかのぼるほど、共通するところが多いのではないかと考えられます。」

文化=文をもって化する、文をもって民を治めるという意味